ついに想田和弘がアメリカで観察映画を撮った。しかも舞台は、全米最大のアメリカンフットボール・スタジアム、通称“ザ・ビッグハウス”。パブリック・アイビーと称される名門ミシンガン大学が誇るウルヴァリンズの本拠地だ。収容人数は10万人以上、地元アナーバー市の総人口に迫る。
想田を含めて17人の映画作家たちが廻すキャメラが捉えたダイナミックなプレイ、熱狂する観衆、バックヤードで国民的スポーツを支える実に様々な人々…。それらの映像群が、想田の大胆かつ緻密なモンタージュによって、まるで巨大な生命体のように機能するスタジアムの全貌を描き出していく。
それは現代アメリカの縮図でもある。教育とスポーツとビジネスの関係。人種や階級、格差、宗教問題。台頭するナショナリズムやミリタリズム…。アメリカが誇る文化と抱える問題とが、“ザ・ビッグハウス”という小宇宙に浮かび上がる。撮影は2016年の秋、奇しくもドナルド・トランプ大統領誕生へと至る選挙戦の最中に行われた。
1人の米大統領と8人のノーベル賞受賞者を輩出しているミシガン大学は1817年創立の名門州立大学。2018年の世界大学ランキング21位(東京大学は46位)。ミシガン・スタジアムの収容人数は全米最大の107,601人(世界2位。1位は北朝鮮の綾羅島メーデー・スタジアム)。ウルヴァリンズの試合は2014年シーズンまでに258回連続で10万人以上の動員を記録し、そのチケット収入、放映権料、グッズ・ライセンス料などの総額売上は年間170億円以上を見込む(日本プロ野球球団の平均売上は約125億円)。現在チームを率いるジム・ハーボー監督の年俸は約9.9億円…とにかくスゴイ。
『ザ・ビッグハウス』は、大きさ、軍事、宗教、マチズモ、 人種、階級、経済、そして政治において、アメリカという巨大な家を映す鏡。ナレーションはないが饒舌な二時間!
町山智浩(映画評論家)
町山智浩さんによる解説はこちら超絶面白い!!大傑作ではなく超傑作。
発明と発見、手法と目的が奇跡的に両立している。
21世紀、平成の終わりに日本で見ているのに、
まるで20世紀初頭、映像の世紀の曙を経験した観客のように興奮。
アメリカのスタジアムの大観衆を描いた本作は、
瀬戸内の過疎地を描いた、前作「港町」と対照的であり、観察映画というジャンルを創る、想田監督のフィルモグラフィーとしても見事過ぎる。
水道橋博士(お笑い芸人)
名門ミシガン大学が誇る巨大スタジアム、「ザ・ビッグハウス」での華々しいカレッジ・フットボールの試合の舞台裏を描くドキュメンタリーと思って観始めたが、大きな勘違いに気付いた。現役大学生、マーチングバンド、地元ファン、寄附する卒業生、掃除するボランティア、医療スタッフ、料理スタッフ、彼らこそ、この「ザ・ビッグハウスに通う」主役であり、試合はむしろ脇役だった。もちろん、これら全てがアメリカの文化なのだが。
NFL解説者 輿 亮(富士通フロンティアーズ)
10万人を一気に飲み込むスタジアム。その熱狂の陰で、それぞれの"GAME DAY"を迎える人々。彼らは試合の勝敗さえ覚えていないだろう。『BIG HOUSE』とは何なのか?この映画を観れば、それが分かる。
有馬隼人(元アメリカンフットボール選手)
これは単にアメリカの有名大学のフットボール・ゲームの裏舞台を描いたドキュメンタリー映画ではない。
そこには今日のアメリカ社会が抱える病理の全てが映し出されている。トランプ登場の真の背景を知りたければこの映画は必見だ。
神保哲生(ビデオニュース・ドットコム代表/ジャーナリスト)
スクリーンから目が離せない!
レスリー・レイモンド(アナーバー映画祭)
素晴らしく豊か!
デニス・ヴェッター(ベルリン批評家週間)
(順不同・敬称略)
監督・製作・編集:想田和弘(そうだ・かずひろ)
1970年栃木県足利市生まれ。東京大学文学部卒。スクール・オブ・ビジュアル・アーツ卒。93年からニューヨーク在住。映画作家。台本やナレーション、BGM等を排した、自ら「観察映画」と呼ぶドキュメンタリーの方法を提唱・実践。
監督作品に『選挙』(07)、『精神』(08)、『Peace』(10)、『演劇1』(12)、『演劇2』(12)、『選挙2』(13)、『牡蠣工場』(15)、『港町』(18)があり、国際映画祭などでの受賞多数。著書に「精神病とモザイク」(中央法規出版)、「なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか」(講談社現代新書)、「演劇VS映画」(岩波書店)、「日本人は民主主義を捨てたがっているのか?」(岩波ブックレット)、「熱狂なきファシズム」(河出書房新社)、「カメラを持て、町へ出よう」(集英社インターナショナル)、「観察する男」(ミシマ社)など。 本作『ザ・ビッグハウス』制作の舞台裏を記録した単行本「THE BIG HOUSE アメリカを撮る」(岩波書店)が2018年5月30日に刊行。
米国ピーボディ賞、ベオグラード国際ドキュメンタリー映画祭・グランプリ、ベルリン国際映画祭など正式招待。世界約200か国でテレビ放映。
釜山国際映画祭・最優秀ドキュメンタリー賞、ドバイ国際映画祭・最優秀ドキュメンタリー賞、香港国際映画祭・優秀ドキュメンタリー賞、マイアミ国際映画祭・審査員特別賞、ニヨン国際ドキュメンタリー映画祭・宗教を超えた審査員賞、ベルリン国際映画祭など正式招待。
東京フィルメックス・観客賞、香港国際映画祭・最優秀ドキュメンタリー賞、ニヨン国際映画祭・ブイエン&シャゴール賞、韓国・非武装地帯ドキュメンタリー映画祭・オープニング作品。
ナント三大陸映画祭・若い審査員賞、釜山国際映画祭ほか正式招待。
シネマ・デュ・レエル、MoMAドキュメンタリーフォートナイト、ドバイ国際映画祭、香港国際映画祭など正式招待。
ロカルノ国際映画祭、ナント三大陸映画祭、バンクーバー国際映画祭、香港国際映画祭など正式招待。キノタヨ映画祭で観客賞(最高賞)を受賞。
ベルリン国際映画祭、シネマ・デュ・レエル、香港国際映画祭など正式招待。
監督・製作:マーク・ノーネスMARKUS NORNES
ミシガン大学映像芸術文化学科・アジア言語文化学科教授。専門はアジア映画、日本映画、ドキュメンタリー、翻訳論など。アジアのドキュメンタリー、特に、ノンフィクション映画の政治的、倫理的な複雑さを研究の中心テーマとする。山形国際ドキュメンタリー映画祭をはじめ、多くの国際映画祭のプログラミングを手がける。主な著書に「Japanese Documentary Film: From Meiji Era to Hiroshima(日本のドキュメンタリー映画:明治時代から広島へ)」(03)、「Forest of Pressure : Ogawa Shinsuke and Postwar Japanese Documentary(圧殺の森:小川紳介と戦後日本のドキュメンタリー映画)」(06)、「Cinema Babel: Translating Global Cinema (シネマ・バベル:グローバルシネマを翻訳する)」(07)、 「A Research Guide to Japanese Cinema(日本映画研究へのガイドブック)」(09/増補版16)など。『ザ・ビッグハウス』は初監督作品である。
監督・製作:テリー・サリスTERRI SARRIS
ミシガン大学のシニア・レクチャーラー(上級講師)としてメディアプロダクションを講じる。実験映画作家であり、その多くの作品がアナーバー映画祭で2017年(『Circular and Clowning Around』)、2016年(『Drive In and Our Last Hurrah』) 、2015年(『Ziegler』)に上映されている。監督作『Buzzards Steal Your Picnic』(07)で、2007年のデトロイト国際ドキュメンタリー映画祭、2008年のアナーバー映画祭と両映画祭の“最優秀ミシガン映画賞”を受賞。また、元教え子であるスルタン・シャリフと共に“EFEX Project”を手がけ、彼らの長編映画『Bilal’s Stand』(10)は2010年のサンダンス映画祭のNEXT部門で上映され、2011年のハートランド映画祭ではクリスタル・ハート賞を受賞。以来、各地のメディアと高等教育にフォーカスしたイベントなどで広く上映されている。
アメリカン・フットボールのルールすら知らなかった僕がこんな映画を作ることになるとは、人生、不思議なものである。
ことの発端は、小川紳介の研究などで知られる学者マーク・ノーネスによる、確信犯的な奇襲攻撃である。まずは僕を彼が所属するミシガン大学に一年間招聘教授として呼び、さらに「せっかくミシガン大に来るなら、映画作家のテリー・サリスや学生たちと一緒にミシガン・スタジアムについての観察映画を撮らないか」と誘ってきた。
二段階攻撃である。
観察映画を大勢の人たちと、しかもアメリカで撮る?その上、被写体は10万人を収容できるというアメリカ最大のスタジアム?
どうなるかわからぬ冒険だが、そそられる話だ。僕は思わずクラっとなり、この風変わりなプロジェクトへの参加を決めた。大のアメフトファンであるマークは、長い間こういう機会を狙っていたらしい。要は彼の術中にはまったということだ。
これまで僕は「観察映画の十戒」を掲げて、「観察」をキーワードにドキュメンタリーを作り続けてきた。事前のリサーチやテーマ設定、台本作りをせず、目の前の現実をよく観てよく聴きながら、行き当たりばったりでカメラを回す。結論先にありきの予定調和を排除するための方法論である。
映画「ザ・ビッグハウス」の制作では、制作の経緯や体制から「十戒」のすべては守れぬものの、そのコアな精神や理念は実践できたと思う。
僕を含む17人の映画作家(そのうち13人は学生)が、テーマ設定をせずにカメラを持ってビッグハウスへ出かけていく。そして興味を持った人々や場面をそれぞれが撮っては、編集する。編集された場面をみんなで観ては批評し、いろんな気づきや発見を得て、また撮影にいく。その繰り返しだ。
そんな風にてんでんばらばらに撮ったものが、一本の映画になりうるものだろうか?
そう僕自身も心配したが、これがなるんですね、不思議と。
集まった無数の場面を、僕が編集者として一本につなげて、映画は完成した。その結果、17人の視点が同居したコラージュかキュービズムのごとき、ビッグハウスの「画」ができたと思う。
それはそのまま、「アメリカ」の画だともいえる。なぜならビッグハウスには、人種や階級、格差、宗教、ナショナリズム、ミリタリズム、消費社会など、アメリカ的な問題が詰まっている。大学アメフトが巨大ビジネスとなり、州からの助成金を減らされた“州立大学”の経済を支えていることも見えてくる。つまりアメリカ社会の縮図がビッグハウスにあることを、僕らはこの映画を作ることで発見したのである。
なお、撮影は奇しくも2016年の秋、ドナルド・トランプとヒラリー・クリントンの大統領選挙の最中に行われた。普段は民主党が強いミシガン州だが、今回はトランプが制して大統領になったことは周知の通りである。実際、映画に目を凝らしてみると、忍び寄るトランピズムの影がうっすらと、しかし明確に刻印されている。
上映イベント
◉上映日時:8月18日(日)…12:00〜/18:30〜
8月19日(月)…19:00〜
◉会場:8月18日(日)…イオンシネマ戸畑(アクセス:【リンク】)
8月19日(月)…小倉昭和館(アクセス:【リンク】)
◉主催・お問合せ先:北九州映画サークル協議会(【主催者ホームページ】)
TEL:093-561-1784
上映劇場
6月9日(土)〜8月3日(金)
2019年1月5日(土)〜1月11日(金)
7月7日(土)〜7月20日(金)
9月29日(土)のみ
★『港町』も同日上映
会場:とかちプラザ 視聴覚室
7月27日(金)〜8月2日(木)
7月13日(金)〜7月26日(木)
7月27日(金)〜8月2日(木)
8月18日(土)〜8月31日(金)
7月7日(土)〜7月20日(金)
7月7日(土)〜7月13日(金)
7月7日(土)〜7月20日(金)
8月3日(金)のみ
6月23日(土)〜7月27日(金)
<特集上映 想田和弘と世界>
6/23〜7/6 シアターセブンにて開催!
7月28日(土)〜8月10日(金)
8月18日(土)〜8月31日(金)
8月11日(土)〜8月24日(金)
7月8日(日)〜7月21日(土)
8月25日(土)〜8月31日(金)
9月7日(金)、9月8日(土)、
9月9日(日)、9月14日(金)
7月14日(土)〜7月27日(金)
7月14日(土)〜7月19日(木)
8月2日(木)、8月3日(金)のみ
9月7日(金)〜9月13日(木)
8月25日(土)〜8月31日(金)